姫路靼再現プロジェクトの記録

第5歩 川漬け場所の移動

2011.8.25

 原皮を川に漬けた日、8月23日の夜、雨が降りました。

 明くる24日、あわてて現場を見に行くと、市川の水量が大幅に増加。縄ををくくりつけていたた土台の石はどこか行ってしまい、影も形ありません。皮は流されていてもおかしくない状況ですが、かろうじて留まっていました。命綱のおかげです。皮を水中の石だけでなく、川岸の木にもくくっておいて助かりました。命綱に感謝して胸をなで下ろしたあとは、浅瀬にあたらしく土台石を積んで、原皮を漬け直してきました。

 そんなことがあって、本日25日です。現場に行くと、今度は水量が減少。皮が干上がってしまいそうです。あれほどの水はどこへ行ったのか? ひととおり、みんなで嘆いたあとは、再度、原皮の場所を移動して、もうしばらく川の中に漬けておくことにしました。

 自然相手の仕事は、思い通りにはいかないこと、あらためて実感しました。

 予定では今日、皮を引き上げるつもりでしたが、思ったほど原皮の状態が変わっていません。そのため川漬けを続行することにしました。

 期待していた変化とは、原皮のほどよい腐敗です。水中ではまず、石に生えているコケが、皮に付きます。コケって、つまりはバクテリアですから、その作用で原皮のタンパク質が分解されます。要は、バクテリアによって原皮の毛根が腐るのを待っていたのです。

 では、いつ皮を引き上げるのか。ここは、とても重要なポイントといえるでしょう。

 干上がりかけの原皮を手に取った金田は「毛が抜けそうにない。あと2、3日はかかるんじゃないかなあ」と、ふだんの皮革生産の経験に照らして、言いました。これに対して林さんは「あまり時間をかけると銀面が腐ってしまう」と不安の声。かつて、自分ひとりで姫路靼ひめじたんをつくろうとして、そのとき皮を腐らせた失敗からの意見でした。

 早すぎれば、脱毛作業がうまくいかず、毛根が残ってしまいます。遅すぎれば、皮の表面・銀面が腐ってしまいます。

 とても難しい判断です。どれだけ漬ければいいか、文献に残る記録もあてにはなりません。天気、水温、季節によって適した時間は異なるはずです。きっとこのあたりが、職人の勘で進めていた部分なのかもしれません。プロジェクトは絶妙な見極めを求められています。

 とりあえず、様子を見ることにしました。明日になって、原皮の状態が変わっていれば、引き上げればいいし、ダメなら、そのまま漬けておけばいいわけです。


8月24日(水) 気温31度、水温23.5度 雨のち曇り
8月25日(木) 気温29.5度 水温24.5度 曇り