第10歩 板目皮完成! 熟革も完成!!
2011.8.31
タイコでオーバーナイトさせた半裁2枚。朝、味見をすると、潮干狩りのような臭いは残っていても、塩辛くはありません。塩抜き終了です。
開始から9日目、板目皮が見事に完成
塩抜きした半裁を、乾燥させれば板目皮ができあがります。ゴールはすぐそこ。
第6歩で製作した張り板に、銀面を表にして、張り付けていきます。皮の背側を釘で固定。背のラインに沿って、何本も打ちつけました。腹側には、何カ所も穴を開け、ひもを通し、張り板にくくりつけました。皮は乾燥すると縮みます。張り付け方がぴったりすぎると縮んだときに、皮が切れてしまいます。皮が切れず、それでいてピーンと伸びて、しわが寄らない、きれいな仕上がりになるよう、皮の縮み具合を予測して、ひもを適当にたるませて結びました。
9時半、工場そばの駐車場に行き、皮を張った張り板を柱に立てかけました。天日干しの開始です。天気は晴れ。気温30度。
張り板を太陽に向けるため、ときどき方向を変えに行きました。11時には部分的に乾燥し、アメ色に変色し始めました。太陽と風の力で乾燥し、腐敗も止まるそうです。ぬるぬるもなくなり始めています。
午後3時半。完全に乾ききりました。全体が見事なアメ色に変わり、遠目には巨大なスルメのよう。触るとカチカチ。臭いはほとんどありません。板目皮の完成です。最初の川漬けから9日目でした。
板目皮は、熟革や姫路靼に比べ、つくりやすいと考えていて、実際そうでしたが、それでも完成すると感慨もひとしおです。大昔は、鎧などの武具や文箱に使われていた板目皮。後ほど、何かつくれればと思います。
熟革もできあがりました
板目皮と同様に、熟革もひとまず天日干し。こちらは張り板には張らず、ビニールシートの上に塩抜きした半裁を広げました。
9時半に干し始めて、11時に取り込みました。半乾きの状態ですが、もう少しだけ微妙に乾燥させたいので工場に移して干し直しました。2時間ほどすると、板目皮のようなアメ色部分が増えましたが、カチカチではありません。ほどよく湿り気が残り、いい乾き具合のようです。
いよいよヘラがけと足もみを行います。必要な道具はヘラとむしろです。
ヘラは林さんが持参。木の土台に1メートル弱の支柱が据え付けられていて、支柱の上には刃が付いています。切れ味がやや鈍いのが残念ですが、仕方ありません。むしろは足もみ時、下に敷きます。入手しやすいからといってゴザではダメです。むしろがいいのは、ゴザより目が大きく荒いこと。足で踏んだとき、むしろの目と皮がよく絡み、皮の水分を吸収してくれます。
ヘラがけの前に、半裁の皮を半分に切り、ヘラをかけやすいサイズにしました。
昼食を食べて1時15分、皮をヘラに乗せて、ヘラがけスタート。両手で皮を握り、上から体重をかけます。皮をすべらせながら、片方の手を押し込みました。皮と刃の擦れるザッという音がしました。
一押しごとに、皮がアメ色から白色に変わっていきます。皮の向きを変えながら、左右の手を何度も往復。ザッ、ザッ。白い部分が増えていきます。
ある程度ヘラをかけたら、今度は足もみです。皮の外周に何カ所も穴を開け、ひもを通し、そのひもを絞り上げて、キンチャク袋のようにしました。使用したひもは、この皮の端をカットして用意しておいたものです。
コンパクトになったキンチャク袋の皮を、むしろの上に置き、足で踏みました。皮をずらしながら、ひたすら踏んで、もみ続けました。
ヘラがけと足もみは、皮の状態を見ながら交互に繰り返します。足でもんだら、キンチャクひもを解いてヘラをかけ、またひもで結んで足でもみ......。重労働です。ヘラがけと足もみ作業により、繊維がほぐされ、柔らかくなっていきます。同時に皮の中の水分が均等に行き渡っていくそうです。一度だけ、水分が飛びすぎたので、水を口に含み軽く吹きつけました。
次第に皮は、より白く、より柔らかくなっていきます。開始時に比べ、ヘラがけのワンストロークが長くなりました。皮がこなれ、引っかかりが減ってきたのでしょう。ザッ、ザッの短い濁音は、サー、サーと流れる清音になりました。
スタートして2時間。「あ、できた。このシボ。これですよ」と、林さんは指さしながら顔をほころばせました。いつのまにか革らしいシボができています。手ざわりも革そのもの。普通の革のにおいがするだけで、臭くはありません。板目皮に続き、熟革も完成です。
「よかった、責任を果たせて。ホッとした」と、林さんは安堵の表情を浮かべました。じつは当初、林さんが話す熟革の話は、メンバー一同半信半疑で聞いていたのです。文献に記されているといっても、姫路靼のように伝え聞いたこともなく、そしてなにより、革づくりを生業にする者にとって、地脂だけでなめして革にするという製法は、にわかにはうなずけない、不思議な話だったのです。そんな周囲の雰囲気を林さんは感じていたから、肩の荷を下ろせたと喜んだのでした。
「これが安土桃山時代か、それ以前の革。初源の革です。大昔は、こうやって革をつくっていました。今回、熟革を証明できてよかったですが、できたのは、せいぜい30センチ四方。私が下手なせいもありますが、半裁からこれしか取れないなら効率が悪すぎます。だから、時代を経るにつれ、いろいろ薬剤を加えるなど工夫して、革づくりは改良されていったんでしょう」。
キュキュッ、キュキュッ。できあがった熟革を手でもむと、革が擦れて、心地よい音がしました。革が鳴いているようです。
姫路靼。No1は天日干し、No2は毛抜き
昨日、天日干しをしたNo1の皮は、本日も川原で干しました。8時20分に干し始め、10時と13時に裏返し、15時に引き上げました。
ポリタンクに漬けていたNo2は、状態が進んでいたので、第8歩と同様に、せん包丁で毛を抜きました。脱毛後は、やはり5リットルの塩をまぶし、タイコで塩もみし、重しを載せて保存しました。
作業終了後の皮の状況
No1 室内保存
No2 折りたたんで重しを載せて保存
No3 板目皮完成、熟革完成
8月31日(水) 晴れのち曇り 工場内の気温26度 駐車場の気温30度