姫路靼再現プロジェクトの記録

第17歩 足もみ、洗い皮、天日干し、ヘラがけ

2011.9.13

「洗っても洗っても、塩辛かったですよ」。小松尾さんの手は、昨日帰宅後、ずっと塩味がしたそうです。昼間、皮を触り続けたせいで、皮内部の塩分が手に移ったのでしょう。小松尾さんの言葉には、他のメンバーも心当たりがあり、口々に手の辛さを訴えました。きっと今日の帰宅後も、塩辛いはずです。いっぽう、手の塩辛さは皮内部に塩が残っている証ですから、皮の状態は良好といえます。

 というわけで、今日も足もみ開始。壁に向かい、さばり木をつかんで、足を動かしました。黙々と続けると、疲れが増すので、話しながらの足もみです。

大崎
「昔のひとの根気はすごいなあ」
「でも、これが普通やったから、何も思わんのですよ。他に方法がなかったですから」
大崎
「均一にもむのが難しい。昔のひとは、どうやってたのか、想像しながら、やるけど、なかなかうまいこといかん」
小松尾
「いまなら、機械でやるんでしょうね」
「白なめし(姫路靼)は、本当にシンプルな革ですよ。塩と菜種油だけ。エコいうたら、こんなエコはないですよ」
大崎
「むしろに、油を取られるな」
「そこが、むしろの良いとこ。むしろは目が大きいから、皮がよく絡み、滑りにくい。だから油も皮にまわりやすいんですわ」

 取り留めない会話に気が紛れます。昔もきっと世間話などしながら、やっていたのでしょう。足もみの途中で、簡単な天日干しをはさみました。油をさっと飛ばすためで、数分ほど太陽にあてました。

 しばらく足もみを続けてから、洗い皮をおこないました。洗い皮とは、その名の通り、皮を洗う作業で、石けんをつけ、わらでつくったタワシでこすり、汚れと油を軽く洗い流しました。

 洗い皮で皮に水分が含まれたので、天日干し乾燥。このあと、また足もみ作業があるため、洗う前ぐらいの固さまで乾かしました。

 足もみ、天日干し、足もみ、洗い皮、天日干し、足もみと来て、次はヘラがけ作業に移ります。

 足もみ作業から次の作業へ移るタイミングは、皮の固さや色を見て、林さんが判断しました。その都度、皮の変わり具合を説明してくれますが、前日の菜種油塗りと同様、やはりその違いはよくわかりませんでした。皮に対する感性が求められるそうです。

 ヘラがけ作業です。皮を伸ばすのが目的で、要領は熟革のときと変わりません。ヘラの刃の上に置いた皮を両手でしっかり握り、握った腕に体重を乗せながら、両腕を交互にググッと押し下げます。腕は開かず、真下に降ろすのがポイントです。横から見ると、ヘラの支柱に沿って押し下げるのが良いようです。

 ヘラがかかった瞬間、その部分は白くなりました。ヘラが通るたびに、白い面積が増えていくのが、はっきりわかりました。

 ヘラのかけ始めは、皮は固く重く、よくひっかかりますが、繰り返すうちに、なめらかにかかるようになりました。ヘラと皮の摩擦音も、ザッ、ザッの短い音から、ザー、ザーの長い音に変わりました。

 汗が落ちます。ヘラがけも足もみに負けず、かなりの重労働。ヘラの刃は摩擦で熱くなっていました。

 ヘラがけは、狭い範囲を少しずつ伸ばしていくのに効果的な作業ですが、もっと大きな範囲に力をかけて、全体のバランスを取り、皮を伸ばす必要もあるでしょう。足もみ時のさばり木を使いました。さばり木に、皮をかけ、手前に大きく垂らします。垂れた皮の上から、膝でグイグイ押さえつけます。膝に全体重を乗せれば、その分皮もよく伸びます。勢いをつけた膝蹴りもありですね。皮がよりきれいにフラットになっていきました。

 ヘラをかけ、さばり木を使い、足もみでしわしわになっていた皮を伸ばしていきました。皮が革に変わっているのかもしれません。

 昨日から継続する足もみ、ヘラがけは、最終的な仕上がりを左右する大事な作業といえます。以前、同じもみ作業でも、塩もみでタイコを使ったのは、その作業が仕上がりに影響ないことが理由のひとつでした。重労働ですが、機械に頼らず、人間の力でがんばりたいところです。機械でやると、完成したときの風合いや味やシボなどが、落ちると言われます。

 でも、本当にそうなのでしょうか。機械は手作業にかなわないのでしょうか。半裁A、B、Cはこのまま手作業で進めますが、対して半裁Dは機械を使うことにしました。古来の手作業vs平成流の機械作業。果たして、どちらが質のいいになるでしょう。実験です。

 半裁Dは、タイコで5時間のカラ打ちをおこないました。

 この日から、半裁ごとに進ちょく状況が異なっています。詳細は下表にまとめました。

 足もみ、ヘラがけは明日も続きます。がんばりましょう。


9月13日(火) 晴れ 工場内の気温29度 外34度

足もみ、ヘラがけ、天日干しの半裁別作業詳細

・表中のグレー部分は、本日実施した作業
・作業時間左の小さい数字は、第何歩を表す

半 裁 I D A B C D
丸皮時の番号 No1 No1 No2 No2
担当 (第1~20歩)
小松尾 (第21~38歩)
小松尾 (第1~20歩)
(第21~38歩)
大崎 金田
重さ 4.5kg 4.5kg 5kg 5kg
裏漉き後の厚さ 1.2mm 1.2mm 1.5mm 1.5mm
1 天日干し 9 4時間10分 9 4時間10分
2 天日干し 10 6時間40分 10 6時間40分
3 天日干し 12 6時間30分 12 6時間30分 12 6時間30分 12 6時間30分
4 天日干し 13 8時間30分 13 8時間30分 13 8時間30分 13 8時間30分
5 天日干し 14 7時間40分 14 7時間40分 14 7時間40分 14 7時間40分
6 足もみ 16 3時間 16 2時間 16 2時間15分 16 30分
7 足もみ 17 30分 17 1時間20分 17 3時間50分
8 タイコ 17 カラ打ち5時間
9 天日干し 17 3分 17 4分
10 足もみ 17 30分 17 30分
11 洗い皮 17 表裏 17 表のみ
12 天日干し 17 天日50分
室内2時間
17 天日40分
13 足もみ 17 30分 17 50分
14 ヘラがけ 17 40分